古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

[x]は年の瀬にて窹寐思服たる日々に思い耽るものである

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第一章

 

「ん~~~……!3時間、集中してみっちりできたなあ」
 わたし、古橋文乃は、大きくノビをして、首を軽く回転させる。普段肩こりはあまりないほうなのだが、さすがにここ最近、机に向かう時間が一日の大半を占めているので、いつもよりもばきばきしている、ような気がしているのだ。その点、わたしの高校一年生来の友人、りっちゃんこと緒方理珠ちゃんは肩こりがひどいようで。あのおっきな胸が関係しているらしい。え?肩こりがないわたしの胸はつまりおっきいの反対ではないかって?ふふふ、放課後体育館の裏にきやがれ、だよ!さて、冗談はさておき。
「いよいよ、だからね」
 小さく息を吐き、きたるべき時に思いを馳せる。どうして机に向かう時間が増えているのかといえば、わたしは、高校三年生で、いわゆる受験生だからなのだ。今日は、12月27日の金曜日。つまり、年の瀬を迎えていて、年明けにはセンター試験が控えている。まさに、天王山目前だ。緊張していないといえば嘘になるけれど。すこし立ち止まって自分のこれまでの歩みを振り返ると、隔世の感はある。なぜなら、苦手科目の数学ですら、しっかりと試験に立ち向かえる実力がついている実感があるからだ。
 高校三年生になりたての頃。わたしは進路選択に避けては通れない数学への苦手意識がすさまじく、それに深く関連するその科目での成績が壊滅的だった。短期的に言えば、行きたい大学に行けない。それはつまり、長期的に言えば自分の夢である、天文学を学ぶ入口にすら立てない、ということ。それは、成績だけに関わらない。天文学を志す以上、数学が避けては通れないことくらいは、わたしも知っているから。そもそもの向き合い方から変えなければ……。だが、言うは易く行うは難し。そうそう簡単にいかないまま、いざ受験がせまってきて、周囲の大人たちからも、得意科目である国語を中心とした進路選択をするような圧力がいよいよ強くなり、もはやこれまでか、といろんなことを諦めかけていた時に。

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 大げさではなく、運命を変える出会いがあった。唯我成幸くん。同級生の彼が、わたし、そしてわたしと同じ悩みを抱えていたりっちゃんの教育係になってくれた。わたしたちと正面から向かってくれて、ほぼゼロの状態から、熱心に勉強に付き合ってくれたのだ。同じく同級生である、武元うるかちゃんと三人の「できない」生徒を決して見捨てることなく、センター試験に苦手科目でも勝負できるほどに学力を身につけさせてくれた。
「……成幸、くん」
 思わず、小さな、本当に小さな声で、その恩人の名前を口にする。……どきん、と一つ大きな鼓動。名前を呼んだだけで、心の真ん中に、小さいけれど、あたりをほっとさせてくれると灯りがともされる。でも、一方で。ごめんね、りっちゃん、うるかちゃん。彼のことを想うたび、彼女たちへの後ろめたさもまた、心をよぎってしまう。
 お気づきの方もいると思うが、わたしは、彼、唯我成幸くんに、憎からざる想いがある。しかし、それは、「できない」仲間であり、なによりも大切な友達でもある、りっちゃんとうるかちゃんが、成幸くんのことを好きだ、ということを知ったあとで、抱いてしまった気持ちなのだ。いったい、どう扱って、どう着地させればいいのか。
 少しはわかるようになってきた数学の数式たちと異なり、こればかりは公式も何もなく……。彼にも、友達にも、相談さえできなくて。堂々巡りをし続けているのだった。

 

第二章

 

「はあ」
 小さくため息をつきつつ、手元にある、少しぬるくなってしまったコーヒーをすする。勉強には糖分が必要だからね、仕方ないからねっ!という心強い言い訳のもと、砂糖もミルクもたっぷりだ。今、わたしは、在籍している一ノ瀬学園の生徒御用達のファミレス、ジョモサンにいる。きちんと一人500円以上の一品を頼んでくれたら、4時間は勉強してもいいよ、しょうがないなあ、という受験生の味方なのだ。勉強道具を広げただけで、苦い顔をされ、15分もすると他のお客様もお待ちなので、ということで退席を促されるカフェやレストランも少なくない中で、とてもありがたいのだ。
 もちろん、今日もわたしはしっかりといろいろ頼んでいる。朝の9:00に店に入り、トーストとサラダがセットになったモーニングとドリンクバーを頼んだ。10:00には小さなチーズケーキとティラミスを一つずつ頼んだ。11:00にはポテトフライとチキンナゲットのバスケットを頼んだ。いずれも、しっかりと食べきっているところだ。ん?栄養は胸にいってないですよね、って?お腹周りにいってるんですかあ、だって?ふふふ。いい度胸だ、あとでお説教3時間コースが必要、だよ!まったく!!さて。店内に設置されている、壁掛けの時計に目をやると、12:00を回ろうとしているところだ。そろそろお昼ご飯を頼んで、それを食べたら自宅に帰って仕切り直しかなあ、と思い、メニューをぱらぱらとめくってみる。やはり、勉強している分、お腹は減る。すいません、と店員さんを呼び、
「このアンガスステーキランチを、お肉とライス大盛りでしてください。あと、サイドメニューでサラダもつけてください!」
と注文をする。このお店でよく見かける、大学生くらいと思われる店員のお姉さんは、朝からたくさん食べているわたしに慣れてくれているので、ぎょっとすることなく、笑顔で対応してくれた。

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 少し脳も疲れている。だから、少しだけ元気をもらわないとね、と言い訳をしつつ、わたしは携帯を手元に寄せて、ホームボタンを1回だけ押す。暗かった画面が明るくなり、いわゆる待ち受け画面に切り替わる。
「……」
 わたしは、えへへ、と笑いたいところをぐっと抑えるのだけれど、思わず顔が綻んでしまうことまでは避けられない。わたしの携帯には、唯我成幸くんが、猫を撫でている写真が映し出されている。先日、わたしの家に成幸くんが勉強を教えに来てくれた時のこと。たまたまお父さんが知り合いの人から預かった猫がうちにいて、その猫にいろいろ引っ搔き回されつつも……いいことがいくつかあって。その一つが、期せずして成幸くんの写真をゲットできた、というもの。今、学校は冬休みに突入している。少なくとも12月31日の夕方までは、クラスメイトに会う用事もない。その間、これを携帯の待ち受けにしてもバレることはないのか、そっか、と思い。もちろん、りっちゃん、うるかちゃんの顔が脳裏には一瞬浮かんだものの。ほら、この猫、フミが可愛いから、この子を見たいからこの待ち受けにしようかな、うん、そうしよう!わたし、猫好きだし!と少し強引に自分を納得させる理屈もつくったうえで、思い切って、彼の顔がいつでも携帯で見れてしまうような設定にしている、というわけなのだった。猫を見る彼の表情は、とても優しくて、彼の印象そのものでもある。きゅう、と胸が締め付けられた。

 とある秋の日、成幸くんの応援のおかげで、わたしは夢に向かって大きな一歩を踏み出すことができた。その日の夜、わたしと成幸くんは、二人きりだった。そこで抑えきれない感情ゆえ、少しだけ彼に甘えてしまって。そこでのとあるやりとりで、それまで募らせていた気持ちと向かいざるを得なくなった。その結果、その時、わたしは、大切な友達、りっちゃんとうるかちゃんが好きだ、ということをわかっていながらも。

 一番「そう」なってはいけないはずの人に、恋をしてしまったのだ。

 ……その自覚をしてしまって以来、わたしは、より幸せにもなり、より後ろめたくもなってしまって。
 彼の姿を見るだけでほっとする。彼の声が聞こえるだけで気持ちが一段階明るくなる。彼と目が合うだけで自分の笑顔が増えることを自覚する。朝、彼に少しだけでもきれいだ、と思ってもらいたくて、準備にも気合が入る。
 だけど、だ。誰にでも優しい彼が、りっちゃんやうるかちゃんと親しくしているところを見てしまうと。頑張ってほしい、という気持ちもある一方で、……もやもやしてしまう自分も、否定できなくなるのだ。積極的に成幸くんと近づこうとしている彼女たちが視界に入ると、彼との大切な思い出が頭をよぎり、わたしだってそうしたいんだ、という気持ちが湧き上がってしまう。それはなんとか抑えるのだけれど。
 日々、彼への想いと、彼女たちへの遠慮、どちらも強くなっていく。その乖離がどんどん広がっていく。それは一層、解決するための選択肢がなくなっていくような気もしていて、正直、辛いなあ、とも思うのだった。

 

第三章

 

 お決まりの思考のループにはまってしまった。これでは、勉強にも支障がでてしまう。お昼ご飯もこれから運んでもらってくるのだし、一度気分を変えるべく、お手洗いにいく。お父さんからわたしのお誕生日にもらった、色付きのリップクリームを唇に塗りなおした。唇。そういえば、このリップで、あのことがはっきりもしたのだ。
「だめだなあ……」
 わたしは弱気になる。あのこととは、やっぱり成幸くんがらみの事。文化祭で、わたしはあるぬいぐるみとキスをした。勘違いもあり、そのぬいぐるみの中が誰だったのかわからず、わたしは相当気になっていたのだけれど。このリップがきっかけで、ぬいぐるみ越しとはいえ、わたしは成幸くんとキスをしたことがわかった。……わたしは、キス、それもファースト・キス!の相手が、成幸くんで、よかった。そう、心から思ったことは、決して忘れない。

 

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 ……と、まあ。わたしは日ごろよっぽど意識をしないようにしていたのに。一度、そういう、なんというか、乙女モードに入ってしまうと、ことあるごとに成幸くんのことを考えずにはいられなくなってしまうのだ。これはもう、食べ終わったら早々に撤収して、鹿島さんあたりとメッセージのやりとりをして違うことを考えるようにして、勉強モードにまた必死で引き戻そう。そう決心して、席に戻る。すでに頼んだご飯は運ばれていた。よしよし、おいしそうだぞ。よし、集中してしっかりと食べよう!そして、フォークに手を伸ばした時だった。
 わたしの背中越しから聞こえてくる声があった。さっきの中学生くらいのグループが新しいお客さんと入れ替わったのだろうか。ほどなく、あ、と思う。二人のうち、一人の声。どこにいても、絶対に聞き逃さないだろう。だって、わたしの想い人のそれだったのだから。
「まったくよー、小林のやつ、また彼女との勉強の先約があるとか言って俺らの誘いを断りやがって……」
「うんうん……」
「折角男三人で決起集会も兼ねた勉強会をしようと思ってたのに!」
「そうだな……」
「おい、唯我っ!バリバリと勉強を進めないで、俺にもかまってくれよっ!」
「あー、もうっ!大森、センター間近なんだぞっ!緊張感もってやろうぜっ!」
 成幸くんと、彼の友達の、たしか大森君、だろう。成幸くん、成幸くん、成幸くん。成幸くんと会いたいし、言葉を交わしたいけれど……もしそんなことをしたら、嬉しすぎて、たぶん午後から勉強に手がつかなくなってしまう。もう自分の理性を最大限動員して、ご飯を食べ次第退散しなくては。体を縮めてなんとかこの場をやり過ごそう。彼らの雑談、というか、大森君の一方的な愚痴は続いている。
「でもよーっ!……はあ、クリスマスも結局一人だったし。まあ、とびきりの美少女に囲まれているおまえと俺じゃあ、事情が違いすぎるからな……」
「わかった、わかったよ!息抜きに5分だけ雑談に付き合ってやる!そしたら、また勉強に集中するぞ、いいな!」
 業を煮やしたのだろう、成幸くんは少しだけ大森君とおしゃべりしてあげることにしたようだ。困っている彼の顔を思い浮かべ、思わずわたしはくすりとしてしまう。だが、続く話題でわたしのそんな余裕は……一瞬で消し飛んでしまった。

「結局さあ、唯我」
「なんだよ」
「誰が好きなわけ?」
「え?」
「え、じゃねえよっ!!!学校でお前があれだけ一緒にいる、古橋さんっ、緒方さんっ、武元さんっ!みんな進路は別々の志望なんだろ?その前に決着をつけようぜっ!!」
(!)
 思わずわたしは息を呑む。成幸くんは、なんて答えるんだろう……!
「だーかーら!あいつらとは、そんなんじゃないって何度も言ってるだろ?今はみんな受験に向けて一生懸命なんだからさ。そんなこと考える余裕は俺にはないし、あいつらにも失礼になっちまう」
 少し拍子抜けはするけれど、成幸くんらしい答えに、安心してしまう自分もいる。そうだよね、誰とか、ないよね。聞きたい、でも聞きたく、ない。複雑な気持ちになるそのこと、先送りしてもらって気にはなりつつ、ほっとするところもあり。彼のいうとおり、今はわたしも、勉強を頑張らなきゃ。でも、そこで、だった。

「おい、唯我」
「もう、どういわれたってこれ以上答えることなんてないからな」
「おまえ、文化祭の花火があがったとき、とある女の子に手を差し出されて助け起こされてただろ」
(!!!!!)
「おま、それ、なんで……!」
 成幸くんが明らかに動揺する。
「俺がさっき挙げた三人のうちの、一人だったはずだ。その直前、ほかにも、桐須先生ともう一人ちびっこがいたけどよー」
「それ、は……」
「俺も、まあ、後ろ姿しか見えなかったけど、シルエットでなんとなくわかった。あの長い髪を一つに結んでポニーテールにしててさ、あの背の高さと細身の体型といえば……」

 

第四章

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「待て、待ってくれっ、大森!!」
 成幸くんの声が2段階くらい大きくなり、思わず店内がざわついた。と、同時に。ドッドッドッ……わたしの胸のドキドキのエンジンが、もう、限界だった。なぜなら……。
「ど、どうした、唯我」
「おまえそれ、誰かに言ったこと、あるのか……!?」
「さすがにそこまで俺も野暮じゃない。安心しろ、誰にも言ってねーよ」
「……そ、そうか……」
 はっきりとほっとしたことがわかる成幸くん。そして、それはわたしも、だった。まさか、あの瞬間のこと、誰かに見られていたなんて……。

 

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「あのさ、インスタのやつ、覚えてるか?夏休み明けに、おまえとその子が、俺がアップした写真を消す消さないで大慌てだったやつ」
「覚えてる。あれはやってくれたよな」
「悪かったよ。ま、それはそれとして」
「それはそれとって……まったく。それで、なんだって?」
「あの時さ、おまえら、お似合いだなって、思ったんだよ」
「!!」(!!)
 成幸くんの表情は窺えないけど、動揺していることは、伝わってくる。わたしだって、そうだ。
「うまく言えるかわかんないけど。俺と唯我は、友達だろ?」
「……?おう、そりゃな」
「友達同士でいるときって、結構自然体に近いと思うんだよ。着飾ってないっていうかさ。特に唯我は裏表ない、いいやつだから、余計にな」
「そうかな。自分ではよくわからないけど」
「多分、仲のいい人になら、誰にでもそうだと思ってさ。あの三人の女の子といるときも、そうなんだろうなって」
「……うん」
「でもな。おまえとその子が二人でいるときの雰囲気がさ。もっと自然すぎたっつうか。ああ、唯我はこの子には本当に心を許してるんだなっていうのが、伝わってきたんだよ。自分じゃあ気づかないと思うけど、その子を見る視線がすげえ優しくて。あんな顔、俺は少なくともみんなでいるときには、見たことなかったから」
「……」
「おまえが本当に意識してるかどうかは、わかんねえし。そこを今日はっきりさせたいわけでもないんだ」
「うん」
「ただ、おまえとその子がさ。うまくいってほしいと思ってるんだ。そのことだけ、言いたかった」
「……大森」
「ん、どうした、唯我」
「今、正直、受験のことや、あいつらの進路のことで、頭は一杯。それは、嘘じゃない。だけど。だけど、さ。俺も、一応男だから、その子のことが気にならないのかっていえば、そんなわけはないんだよ」
「……そうか」
 大森君の声は、嬉しそうだった。わたしの心臓は、早鐘を打ち続けていて、爆発寸前のまま、だ。文字通り、心臓に悪い……!
「まだ、そういうことの心の整理は、まったくついてないけど。もしも、いつか。『そう』いうことになったときは。大森、必ず報告するよ」
「おう。頼むぞ?」
「うん。お、10分もたってるな。よし、勉強するか!」
「あーっ、もう終わりかよっ!!はあ、そろそろ可愛い女の子が多い予備校さがそっかな……」
「馬鹿野郎、諦めが早いよ。ほら、お前が苦手な世界史のまとめノート。世界史はちゃんとやれば安定して点数確保できるからさ。一緒に頑張ろうぜ!」
「ありがてえ、さすが、俺の友達っ!!」
「わかった、わかったから!手を握るなっ!!」
 本題が終わって、二人のやりとりから意識を外し、わたしは、ずるっと背もたれからさらに滑り落ちる。おいしそうなご飯を目の間にしているのに、しばらく、動けない。身体の熱が1℃、2℃……いや、それ以上に跳ね上がった気さえしている。これはもう。今日は、勉強が手につかないのは、確実だった。

 

おわりに

 

 ファミレスからの帰路につきながら、はあーっとはいた息は、白い。昼間とはいえ、やはり12月なのだ。さて。盗み聞きみたいになってしまった、さっきのやりとり。忘れなきゃ、とは思いつつ、リピートしてしまうところもある。

『俺も、一応男だから、その子のことが気にならないのかっていえば、そんなわけはないんだよ』

 ぼっと、顔から火がでそうだった。話の文脈から捉えれば、その子=わたし、だったから。

 もちろん、人の心は移ろうかもしれないものだし。先のことは、何一つ確定しているわけでは、ないのだけれど。

 それにしても。成幸くんには、大森くんがいて、うらやましい、と思った。自分の恋を相談できる、もしくは、受け止めてくれる友達がいること。わたしにも、仲良くしてくれる子はいるのだけれど。りっちゃん。うるかちゃん。鹿島さん、猪森さん、蝶野さん。クラスメイトたち。だけど、わたしの恋は友達との板挟みでもあるので、当事者のりっちゃんやうるかちゃんにはとても言えない。その勇気も、いまは、ない。そして、広められたら大変なので、鹿島さんたちにも。
 もしも、お母さんがまだ生きていたら、きっとお母さんには打ち明けて、相談することができていたのだろう。
 
 わたしを応援してくれている彼への何よりの恩返しは、受験をクリアすること、だ。やはり、帰宅してから、しっかりと頭を切り替えて勉強を頑張らなければ。よし、と小さく気合いをいれつつ、だ。

 いつの日か。好きな人に、胸に秘めているこの大切な想いを伝えることができたらどんなに素敵だろう、そう思うわたしなのだった。

 

(おしまい)