古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

或る人は[x]を縁に彼と彼女の物語を垣間見るものである

 

 

私は、ある街で花屋さんをしている。

 

季節ごとに変わりゆくたくさんのお花💐🌼🌸に囲まれている。そして、花を買いにきてくれるお客さんの相談に乗りながら、誰かへのプレゼントだったり、節目節目のお祝いごとだったり、そういうシーンに少しでも関わることが、けっこう楽しい。

 

ということで、もちろん大変なことはあるけれど。この仕事は、好きだ。

 

常連さんもいる。

 

例えば、毎週月曜日に現れる少し化粧の厚い奥様。リビングに飾る大きな花束を、いつも気前よくぽん、と買ってくれる。怒涛のようなおしゃべりは少し疲れるけれど。

 

あるいは、毎週水曜日に現れるシンプルな装いだけど清潔感のあるお婆さん。なくなった旦那さんのお墓に持っていくために落ち着いた色でまとめた花束を買っていく。たまにお饅頭をくれたりもする。

 

そして、毎週日曜日にくる、小学生くらいの女の子。お花が好きだというその子は、たいていは眺めにくるだけなのだけれど、びっくりするくらいお花に詳しくて。月に一回くらい、お母さんと一緒にきて、プランターに植えるお花を買っていってくれたりするのだ。

 

最後に。毎月第四金曜日の8時ごろ。お店を閉める直前に駆け込んでくる、サラリーマン風の男の人。30少し前くらいだろうか。優しそうで温和な印象。話し方も柔らかくて。いい感じの人だな、というのは変わらない。

 

一番最初に寄ってくれたのは、一年くらい前のことだった。

 

「あの…こんばんは」
「はい、いらっしゃいませ!」
「お花をいただきたいんですけど…」
「ありがとうございます!どなたに、どんな用途で?」
そこでその人は照れながら答える。
「家に花があるといいな、と思いまして。できれば、女性にも喜ばれるものがいいんですが」
「女性はお花、好きですよ!素敵ですね〜」
「あはは…ありがとうございます」
「奥様ですか?」
「はい、そうです」
「でしたら、花言葉もあわせて考えるといいかもしれませんね」
「定番ですと、赤いバラ。花言葉は、『愛』。ストレートですよ?」
「ふむふむ」
「他には、ハナミズキ。『私の想いを受け取ってください』」
「へえ…」
その人は感心しながら、興味深そうに私の説明を聞いていた。
「そして、キキョウ。『永遠の愛』」
「『永遠の愛』…ですか」
「はい。この青紫色、落ち着いていますし、飾りやすいと思います」
「うん、こっちのほうが文乃のイメージに合うな…じゃあ、キキョウをください。小さい花束にしてもらえると嬉しいんですが」
「はい、お任せください!」
そしてその人は、こちらも嬉しくなるくらいにこにこしながら、お花を持って帰っていったのだった。

 

それから。毎月第四金曜日の同じ時間に、お店に立ち寄ってくれるようになった。お店を閉める直前ではあるものの、少しだけおしゃべりをして、いつものようにキキョウを買っていってくれる。

 

話すたびに、いい人で、奥さんのことを大切にしていることも、ひしひしと伝わってくる。うらやましいぞ、奥さん!と、思ってしまう。同じ女性として、愛してもらう幸せほど、シンプルに響くものはないから。

 

ある時、その人はこなくて。どうしたのかな、と少し心配になる。その翌日、土曜日のお昼のことだった。

 

「こんにちは〜!」
「はーい!」
そこには、初めて見る女の人。びっくりするほど、綺麗!!髪がながくて、スタイルも良くて、装いもお洒落。けして派手ではないけれどセンスが良い。思わず、見惚れてしまうくらい。
「いつも、成幸くん…主人がお世話になっています」
はにかんだ笑顔で、話しかけられる。同性の私でも、ドキドキしてしまった。でも、主人…?そんな幸せ者、お客さんにいたかしら…。
「あの、キキョウの」
「…ああ!」
いつもの金曜日の人!奥さんを大切にしてそうだと思っていたが…当たり前だ!こんな美人が…いや、しかし。よく射止めたものだ。いい人そうだとは思っていたけど、はあ。びっくりだ。
「主人が、風邪をひいてしまって、昨日はこれなかったんです。わたしも、いつもキキョウの花束が楽しみで。買いにきたんです」
そう、にこにこしながら背景を教えてくれる。引き込まれそうな笑顔だった。
「あの、折角なら、お花、少しだけ工夫しませんか?」
そんな提案を、してみる。
「…工夫…?聞かせてください」
怪訝な顔をする美人さんに、私は話してみる。

 

「成幸くん、ただいま!」
「おかえり…ごほっごほっ…ごめんな、文乃。せっかくの休みなのに…」
「いいのいいの!そうそう、はい、これ。じゃ〜ん!」
文乃は、成幸に大きな花束を見せる。
成幸は目を見開く。
「おお…すごいな!きれいだ…キキョウがたくさん。これは…白いカーネーション?」
文乃はよく気づいたね、と嬉しそうな表情を浮かべる。
「お花屋さんが提案してくれたんだよ。花言葉は、『わたしの愛は生きています』」
「…文乃」
成幸はさすがに照れている。
「キキョウ、初めてもらったとき、わたし、すごくうれしかったんだから。その、お返しだよ」
そして、文乃は成幸に顔を近づけて…。
「…ん」
成幸に、口づけをする。
「文乃、風邪が移るぞ…!」
少し嬉しそうに、でも怒るという不思議な表情を成幸はする。
「だってね。わたしはあなたに、永遠に恋をしているから」
そう言って文乃は、頬を赤らめながらも、幸せそうに笑うのだった。

 

第四金曜日の夕方。私は、いつものお客さんがくるのを楽しみに待っている。きれいな奥さんですね。どうやって口説いたんですか?とか。つっこみたいことは山ほどあったし。2人の仲良しさにあやかりたい。

 

愛を交わし合う彼と彼女に、お花でいっぱいの暮らしをしてほしいな。そう心から、思うのだった。

 

(おわり)

 

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