古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

純白の装いは[x]を💫星💫のごとく輝かせるものである

夢を、見ていた。

 

わたしは、高校生だった。そこは、高校生特有の高揚感に包まれている。空はもう暗くなりかけていて、夕方から夜になるくらいの時間帯。ああ、そうか。気がつく。

 

文化祭の、後夜祭なのだ。何か。ジンクスめいたことをすると、その相手と結ばれる。ジンクスがなんだったかは思い出せない。

 

ふと気がつくと、目の前に、知っている男の子が倒れていた。慌てて、右手を伸ばす。伸ばしながら、ただ、その男の子のことを知っているだけでないことに気づく。そう、まっすぐに優しくて弟みたいな彼の名前は………。その時、花火の音がしつつ、辺りが一面照らされて。

 

そこで、目が覚めた。

 

大丈夫ですか?とスタッフのお姉さんが声をかけてくれる。

 

はい、少し眠いみたいで、あはは、と答える。

 

ふかふかの椅子に座って、わたしは髪型を整えてもらっていた。

 

正面には、大きな鏡があって。

 

いやがおうにも、わたしの目には飛び込んでくる。

 

綺麗な純白のウェディングドレスを身に纏っている、自分の姿が。

 

あまり可愛いすぎないように、シンプルなデザインにはした。その分、いい生地にさせてもらって、上品な光沢が素敵なドレスだと思う。

 

今日のわたしは、花嫁さん。

 

緊張しているはずなのに、よくもまあ居眠りできたものだ、と苦笑してしまう。確かに、昨日はあまり眠れなかったのも事実なのだが。

 

結婚式。

 

女の子の、夢の舞台。

 

小さい頃、幸せそうなお母さんを見てきていたから、わたしもお嫁さんにずっとずうっと憧れていた。

 

だから。

 

素直に、嬉しい。心から、嬉しい。

 

できましたよ、と声がかかる。髪も、ばっちりとセットしてもらったようだ。スタッフの方に、私、この仕事して長いんですけど、文乃さんくらいウェディングドレスが似合う人は初めてみました。そう真顔で言われて、思わず吹き出す。

 

花嫁さんは、その時々、一人一人が最強の主役なのだから。

 

当たり前でしょ、そう胸を張る。

 

ウェディングドレスが似合いたいのも。この時だけは世界で一番綺麗でいたいのも。すべては。愛する人の為。もっとずっとたくさん、愛してほしいから、だ。

 

身嗜みの準備はほぼ終わる。そこに、お父さんが控え室に入ってきた。

 

目を大きくして…少し驚いたけれど、ハンカチを取り出して少しだけ目元を拭う。似合ってるな。静流も、見ていてくれるだろう。そう、言ってくれた。

 

お父さん。ありがとうございます。わたし、お嫁さんになってくるね。

 

なんとか、泣かずに、それだけ伝えた。お父さんは、少し外す、と言って入ってきたばかりなのにすぐにその場を去っていった。去り際、涙が流れるお父さんの顔を、わたしは忘れないだろう!

 

こんこん。ノックの音。

 

新郎様、いらっしゃいました。

 

そう、外から声が聞こえてきて。

 

恋をしたばかりでういういしいわけじゃない。
はじめてのデートなわけでもない。
はじめてのキスでもない。

 

それでも…。わたしの胸は、早鐘をうっていたし、片想いの時みたいに…今日のわたしになんて言ってくれるのか、期待でいっぱいになっていた。

 

実は、新郎さんが、わたしの花嫁姿をちゃんと見るのはこれが初めてになるのだ。ドレスは一緒に選んだけれど、完璧にメイクアップした姿は初披露だ。なんて、言ってくれるだろうか。

 

かちゃっ、という音と同時に、新郎が現れる。

 

もう、とても。びっくりした顔。ねえ、どんな顔なの?とわたしは慌てて尋ねる。

 

いや、その………。

綺麗だよ。星みたいに…とても…綺麗だ。

 

彼は。わたしの愛する唯我成幸くんは、顔を真っ赤にしながらそう言ってくれて。その言葉だけで、わたしは胸が愛で満たされる。愛してくれてる。この人は、これからもわたしのことを永遠に愛してくれる。そう、心の底から信じることができたから。

 

左手をそっと体にくっつけて、抱きしめる。わたしの左手を、成幸くんはいつも大切に包み込んでくれていた。だから、だから。わたしは今でも、成幸くんで頭も心もいっぱいにしたいときには、そうするのだ。

 

文乃。いこうか。

 

成幸くんはそう言って、右手を差し出してくれる。

 

文化祭のジンクスの時とは逆だな、そう気付いた時。

 

幸せにする。

 

そう、はにかみながら成幸くんは伝えてくれた。

 

もう、わたしにはジンクスはいらないんだと、思った。成幸くんが、これからはわたしとずっと一緒にいてくれるから。

 

わたしは左手をそっと伸ばして、成幸くんの手を握りしめた。

 

そして、するりと成幸くんと腕を組む。

 

いつの間にか、お父さんが戻ってきている。黙ってうなずく。

 

目線で、いってくるね、と伝えて、成幸くんと式場に向かって歩き始める。なぜか、二人分の視線を感じつつ。

 

文乃、幸せになるのよ。

 

そんなお母さんの声が聞こえたような気がした。

 

お母さんがお父さんに恋をして結ばれたように。
わたしも成幸くんに恋をして結ばれた。

 

わたしの旦那さん、かっこいいでしょ。いつも優しいんだよ。そんなことを、自慢したくてたまらなかった。

 

大きく響く鐘の音が聴こえる。幸せの、鐘の音。

 

さあ、わたしと成幸くんの結婚式だ。

 

(おしまい)

 

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