古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

[x]は最愛の星に永遠を誓うものである💫(前編)

 

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【はじめに】

 

🌌星の数ほど人がいて⭐️

🌌星の数ほど出会いがあり⭐️

🌌星の数ほど別れもあり⭐️

そして

💐永遠を誓う出会いも、ある💍

 

【第一章】

 

「…寒いなあ…」
季節は、冬だ。今年は冷えこむ日が例年より多いようで、俺、唯我成幸は、首元が気になりマフラーを巻き直した。右手には。俺には本当に似つかわしくないショップの紙袋。女性に人気のあるジュエリーショップ。中には、指輪💍がはいっている。給料ほぼ三ヶ月分の代物だ。

婚約指輪。

そう、俺は結婚を決意していて。今度、プロポーズに挑もうと決意しているのだ。

さて、そのお相手。高校生の卒業間近から付き合っている。お互い大学生を経て、俺は社会人になり、相手は大学の修士課程に進んだ。もともと、俺がきちんと経済的に自立できたら、と考えていて。学校の教師として勤めるようになって一年と少し。よし、そろそろ、そういう意志を伝えたいな、と決意した次第だ。

お互い想いを通わせたその時から。
相手さえよければ、という大前提だが。これから先、俺がずっとそばで、支えてみせる、と伝えていた。我ながらずいぶん前のめりだったよな、と苦笑してしまうが、その気持ちは、今もまだ、まったく変わらない。

 

古橋文乃さん。

 

愛してやまないその人に、どう伝えるのか。伝えたいのか。どこで、どうやって。

「うーん…」

ずいぶん前から、ばしっとした正解を思い描けず、悩む日々が続いているのだった。

 

【第二章】

 

お互い、いつ好きになったのか。おそらく、恋人同士なら聞き合った経験のある、他愛もないやりとりだろう。俺たちも例外ではなく、したことがある。

彼女は、ある秋のことだという。距離のあった親父さんと勇気を出して向き合ったその夜。俺のおかげだ、と言ってくれた彼女と、並んで座っていて。

夏の夜、一緒に寝ていた時に、俺はつい、彼女の手を握っていた。彼女にその理由を問われ。俺は、おそらく亡くなったお袋さんを想い泣いていた彼女の気を少しでも紛らわせることができたら、そう思っていたことを正直に伝えたのだ。

俺に対する好意は、実は積み重ねてくれていたようで。

そのことがきっかけで、もう恋に落ちるしかなくて、ダメでした、と文乃は恥ずかしそうに笑いながら教えてくれた(その様が可愛くて俺は死ぬかと思った)。

翻って、俺はどうだったか。

何か特別なきっかけがあったわけではなかったのだ。出会った当初から綺麗な女の子だとは思ってはいたが。あくまで一般論だったし、好意をもつもたないの話になるなんて、思ってもいなかったから。

それがどうしたことか。

教育係になり。
女心の師匠になってもらい。
旅館で共に夜を過ごし。
台風の中デートみたいなことをし。
文化祭では着ぐるみ越しにキスをして。
文化祭のジンクスで、手も取り合い。
誕生日プレゼントを巡るドタバタがあり。
俺の家に転がり込んだこともあり。
星空のしたでデートして、激励したこともあり。
ベンチで並び寄り添ったこともあり。
受験のためにともに頑張り。
文乃の家に通いサポートしたこともあり。
バレンタインのチョコレートをもらったこともあり。
吹雪の中の山小屋で2人きりになったこともあり。
星空の下で想いを伝えあって。
縁日で…初めて、キスをした。

付き合った前後のこと、5年ほど前のことでも、鮮明に思い出せることばかりだ。

一目惚れとは違う。でも、それに近かったのかもしれない。認識できない俺の中での「好意」があって。それは、しっかりと積み重なっていて。ふと意識してからは、もう、ダメ。恋を、していたのだから。最初から、好きになることは避けられなかったんだ。

「成幸くん『が』いいんだよ」

ふと、思い出した言葉がある。

親父の遠い背中を思い、つい弱音をはいた俺に、文乃がかけてくれた言葉だ。

ただ、俺らしくあれ、という励ましだけではなくて。俺のこれまで積み上げてきたこと、人格、生き方、大袈裟だけど、その全てを肯定してくれるような。

「…俺は」

「古橋文乃『が』いいんだ」

昔を思い返して。

 

たぶん、一番忘れてはいけなかったことを、改めて俺は見つけた。

 

【第三章】

 

俺と文乃は、山奥の開けた場所にある星空の見える場所にいた。

俺と文乃にとって、特別な場所だ。告白をされ、告白をし、結ばれた後も。何度かデートにきて。その度に幸せな思い出が増える、本当に特別な場所だ。

文乃は、ライトブラウンの厚手のコート、紺色のマフラー🧣を巻いている。髪はおろしてストレートだ。今日も綺麗な髪。

プロポーズをする場所は、本当に迷った。少し背伸びしたレストラン🍽。綺麗な夜景の見えるバー🍸。背の高い観覧車の中🎡。どれもシチュエーション的には良さそうではあったけれど。やはり、星の見える場所が、一番だと思ったからだ。

「なんだかんだ、冬の大三角形は綺麗に見えるよな」
「だよね!わかりやすい星座を眺めているだけでも、楽しいんだ」
「俺はシリウスが好きかな」
「そう?わたしはペテルギウスだよ。こんなお話があってね…」
ほとんど毎日、電話やメッセージでやりとりをしている。だけど、デートはやっぱり特別だ。目の前に、大好きな文乃がいる。それだけで、心は高揚する。文乃も、そうだと嬉しいのだが。ここにくると、やはり星の話で盛り上がる。いつもと違う会話、少し日常を忘れて気持ちを切り替えられる時でもある。

少しだけ、会話が途切れた。お互い、熱いお茶を飲む。ふーっと、白い息を吐きながら、星を見上げている文乃の横顔。何にも変えがたい。愛しくて、愛しくて。

 

【古橋文乃『が』いいんだ】

 

それを思い返し。わかりやすく、自分の胸の鼓動のギアがあがったことを認識しながら、これからの2人のことについて、口を開こうとした時のことだった。本当に不意をつかれて。

「…んむっ…」

文乃に、キスをされる。

「…どうしたんだ?」
「ふふ」

そこには…キスをした後とは思えない…、綺麗だけど、寂しそうな、文乃の笑顔があった。

「成幸くん」

その後に告げられた台詞を、すぐに言葉として認識するには、俺には荷が重すぎた。

 

「わたしを。唯我文乃に、してほしかったんだけど」


「…さようなら、だよ」

 

【終わりに】

 

わたしは、部屋を暗くしたまま、泣いていた。いつまでも、いつまでも、泣いていた。涙は、とまらないし、とまるはずもなかった。

大好きで、大好きで、どうしようもないくらい大好きな、成幸くんに、別れを告げなければならなかったから。

自分で決めていたこと。

ダメージがあることは覚悟はしていた。

だけど、だけど、だけど。

 

そうしなければ…お互いの涙が、永遠になってしまうから。

 

(中編に続く)