古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

さとうは[x]の道筋に懊悩し驚嘆し感涙し歓喜するものである。(5/9)

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一言総括。恋は時に崩れ落ちるものである。でも、希望も見つけた。

 

率直な印象

 

ファーストインプレッションは、とても大切だと思っています。後述しますが、ある1シーンが胸に刻まれてなりません。

 

凄まじい回でした。

 

ラストの崩れ落ち方は、芸術的でした。文乃の苦しみや辛さを知っている読者であれば響きすぎる展開。決して、軽くはありません。つまり、重い。

 

一方で、メタ的に悪い方向にはいかないことはわかってはいるのですが、それは別としても、わたしははっきりと、文乃ルートにきて初めて、成幸と文乃、2人の関係が変化するきっかけを見つけた気がしています。

 

古橋文乃のささやかな幸せ

 

冒頭、成幸が最後に皆に送ったノートが見えます。これとともに、成幸と一緒に勉強すること。

 

そして、お揃いの合格祈願のお守りが、絆になっていること。(うるか、理珠、小美浪先輩も持っていますが…)

 

文乃のささやかで、だけど、かけがえのない、大切な時間です。

 

それを、幸せと呼ぶんです。

 

2人の居場所

 

学校で、2人で話すことの多かったスポット。今回も登場です。

 

恋の相談あり。つきあっちゃうあり。ルートは違いますが、すきを言い漏らすことあり。

 

好きな人と、こんな思い出スポットがあると嬉しいですよね。

 

言い換えれば、それが最後になってしまう時の寂しさも、大きいのでしょうけど。

 

繋がりは…終わってしまうのか

 

成幸と文乃。

 

文乃の怪我は治りました。そのサポート役としての成幸の役割は終了。

 

文乃は無事合格しました。教育係としての成幸の役割は終了。

 

成幸くんとの繋がりも

全部

終わっちゃうんだなぁ…

 

そう。客観的に見れば、2人が繋がる理由はこれでなくなります。

 

続くとすれば、これらとは異なる新しい関係性が必要になります。

 

それがどう構築されるのか。

 

大変率直な物言いで恐縮ですが、妥協するならば友人関係であれば続けやすいですが…。

 

古橋文乃は伝えたい

 

皆、バラバラな道にいく。できる自信が…ない。そんな文乃を成幸は励まします。

 

その中の成幸の言葉。

 

だからこれからも古橋には

前に向かって思いっきり

「好き」を語っていてほしいな

 

この言葉を受けて。文乃は。成幸へ伝えたい言葉を、思い浮かべる。言葉にはできない。

 

あなたが好き

世界中で

誰よりも

 

…まっすぐですね。

 

こいつ国語ができてないな、と思われても構わないので読み込んでいくと、「誰よりも」が気になります。

 

世界中の人間の中で成幸が一番好きだ、と読める。

もう一つは。

世界中の人間の中でわたしが一番成幸のことを好きなんだ、とも読めませんか?

つまり。成幸のことを好きなうるか、理珠のことは知っている。だけど、その2人に負けないくらいに。自分だって成幸のことが好きなんだよ。

 

そういう風にもとらえられるのです。

 

ただ、言えないことに変わりはない。それはやはり、うるかと理珠に遠慮があるから、なんでしょうね…。

 

似ている質問。異なる答え。

 

お父さんって…どんな人だったのかな。

 

文乃が成幸に尋ねます。

 

ごめんね、話したくなかったら、とも付け加えながら。

 

問58、台風デート回と似ている構図になります。

 

この時は、成幸から文乃に尋ねて。やんわりと、文乃は回答しませんでした。

 

今回は、成幸はすんなりと答えます。

 

尊敬している父のエピソードを。

 

2人の父親に対するスタンスの違いが現れてます。今時点であれば、文乃も肯定的にお父さんのことを話せるのでしょうけれど。

 

唯我成幸の瞳に映る「彼女」

 

父についての憧れを語った成幸。遠い背中なんだ、という彼に対して。

 

文乃は意外な言葉で切り出します。

 

いいんだよ

追いつかなくて

 

文乃は続けます。

 

いいんだよ

誰かになろうとしなくても

お父さんはお父さん

成幸くんは成幸くんで

いいじゃない

 

更に。

 

…ううん。ちょっとちがうな…

 

ここで。成幸の瞳には、「古橋文乃」が映し出される。とても、とても印象的な演出だし、意味があると思っています。

 

本稿最後に死ぬほど乱暴に書き綴っていることにもつながるのですが(最後にご覧ください)。

 

つまり。文乃が、成幸のことをずっと見ていてくれていて、初めていってもらった言葉になっていることで、成幸の中で、文乃が「特別になりかけている」のではないか、そう思うのです。

 

そこから繋がる、

成幸くん「が」いいんだよ

最高の台詞ですよね…。

 

成幸くんが、自分の父のようになりたいこと。それはわかった。でも。成幸くんは成幸くん。わたしはそれを知っているし…成幸くん「が」そのままでいいんだ。

 

そんな想いがひしひしと伝わる言葉です。

 

繰り返しますが。

 

仲のいい女の子が。

 

少し特別になりかけている、瞬間だと思います。

 

これは、超重要なターニングポイント。なぜなら成幸→文乃、の想いの部分がはじまったきっかけになるかもしれないからです。

 

古橋文乃はすがりたい

 

成幸がいいかけた言葉。

 

もし、古橋がよかったら

これからもよかったらいろいろ相談に…

 

もしかしたら、この関係が続くかもしれない。

 

文乃の、笑顔になりかける表情が…。とても繊細です。そして辛い。この直後…崩れるから。

 

もう一点。まだ。成幸は友人としての文乃としか認識できていないでしょう。だから、それ以上でもそれ以下でもない繋がりになっていたことでしょう。

 

ただ、そうだったとしても。関係を続けられるのなら。文乃には、どんなことにだってすがりたいんだと思います。

 

古橋文乃は気を利かす…

 

成幸の元へ、気持ちを伝えるべくやってきたうるか。

 

文乃は、その意味をしっていました。

 

なので、いなくなる必要があった。友達を応援する、いや、しなければいけない文乃は、その場から立ち去ります。父から買い物を頼まれていた、という言い訳をしながら。

 

これは、問38、縁日の夜に、成幸とうるかの中を取り持つためにその場から姿を消した構図を思い起こさせるものでしょう。

 

あの時と一番変わってしまったのは。

 

文乃の、成幸へ募らせた想いです。

 

切なすぎる構図です。

 

武元うるかと古橋文乃

 

武元うるかは、告白を果たしました。

古橋文乃は、告白ができません。

 

天と地ほど、以上の差があります。

 

なぜなら文乃は自分に呪いをかけているから。

 

友達の恋を応援しなければいけない、という呪いを。

 

そのことを打ち開けさえすれば。呪いはとけるのに。この眠り姫はそれができませんでした。ここにいたるまで、何も…。

 

文乃の優しさが、表裏一体となり、人間関係を円滑にした一方で、自分の首を絞める。そんな辛すぎる構図です。

 

古橋文乃は「落下する」

 

思考が何一つまとまらない。全てが散り散りで。頭の中をぐるぐると回る。そのことが、表現として秀逸すぎる。残酷なほどです。そして、わかる読者にはわかりすぎるほど伝わるとも思いました。デジタルのように1か0の思考なんかじゃなくて、人間の頭の中はいろいろ混ざり合うもの。それが崩れ始めるとしたら…。そんな印象。

 

あーあ…

全部…

終わっちゃった…

 

関係が終わり。

 

自分の恋も終わる。

 

それが…落下するように崩れ落ちながら思う文乃のたった一つの思考。

 

辛すぎます。

 

古橋文乃の嘘は罰なのか

 

恋を応援してきた友人がいて。その友人が、好きな人に告白をしている。

 

本来、喜ぶべきこと。

 

だけど文乃は喜べない。笑顔になれない。なれるはずもない。

 

その人のことを、文乃も好きになりすぎてしまったから。

 

足のこと

嘘ついちゃった

かなぁ

 

いや。いやいや。文乃には伝えたい。そんなことはないよ、と。

 

確かに嘘をついた。一度目は髪を洗ってもらう時。二度目は本当は治りかけなのにまだ治っていないと言ったとき。

 

どちらも一緒にいたいからの、嘘。

 

わたしは、全然ありだと思っている。

 

恋でわがままになったっていいじゃないか。ただ、好きなんだから。一緒にいたいだけだったんだなら。

 

決して自分を追い込むことにはつなげてほしくない。

 

わたしは切にそう願います。

 

次回以降は

 

予告。成幸との恋愛と友情の狭間で文乃は揺れて!?とあります。成幸orうるかから、恋の相談を受けるのかもしれません。これまた辛い。

 

さらに辛いのは、文乃が簡単に成幸への想いを忘れられていないことが伝わりすぎることです…。

 

その先はまったく読めません。それが楽しみではあるんですが。

 

最後に

 

彼女は言いました。

 

【成幸くん「が」いいんだよ】

 

ちょっと待って。涙がとまらない。この台詞に込められた文乃の想いを斟酌すると、わたしの涙はとめられない。

 

成幸の夢。父のような、立派な教育者になること。このことが、作品終盤で成幸を突き動かす原動力になり、周囲の人間もそのことを知り、ずっと応援してきました。

 

誰もが、成幸のその願いが叶えばいい。

 

そう思えるでしょう。成幸が話したような彼の父親の立派なエピソードを聞けば尚更。100人いれば、99人がそう言うでしょう。

 

でも。

 

1人だけ、そうは言わない女の子がいました。

 

古橋文乃。

 

ありふれた、あなたはあなたらしくでいいんだよ。

そういうメッセージじゃないのか?

 

いや、違います。全然、違います。

 

成幸だから、成幸にしかできない、成幸としての。それを、知っている文乃は言うんです。

 

成幸くん「が」、なんです。

 

完全に限定される。たった一人。

古橋文乃は知っている。

成幸の優しさ。不器用さ。お人好しなところ。誰にでも寄り添ってしまうところ。それなのに女心に鈍いところ。

古橋文乃は…知っているんです。なぜか。ずっと、成幸と一緒にいたから。ずっと、彼を、見てきたから。

 

できない自分たちの「先生」になってくれました。

亡き母の星を探していることを話しました。

数式との仲良くなり方を教えてくれました。

お見舞いに来てくれました。

女心がわからない彼の師匠になり、色々と教えることになりました。

クラスメイトに関係を誤解されました。

一晩を共に過ごしました。星を眺め夢の話をしながら。

名前で呼ぶようになりました。

台風の日、一緒に帰り、デートみたいだな、と言ってもらいました。

文化祭の劇中、事故とはいえキスをしました。ジンクスも、果たしました。

誕生日プレゼントをもらいました。

苦手だった父との対話をするために大きな支えになってくれました。

そして、好きにも、なりました。

怪我をした自分に、ずっと付き添ってくれました。

合格、夢の実現に、つなげてくれました。

 

成幸と過ごした時間、想い。

文乃が、成幸に纏わることを全部込めた台詞なんだ、とわたしは思っている。なればこそ…燦然と輝く。

 

ぼく勉、文乃の大好きなセリフは数あれど、これがわたしのナンバー1です。暫定かもしれないけど。

 

それだけではない。

 

決定的な前進につながる言葉である、とも思ってます。

 

文乃は、成幸に伝えたことができたんです。

ずっと、文乃が成幸を見ていたことを。そして、文乃だけが成幸を特定し規定しその意味を与えることができることを。

 

成幸がどう受け止めたかは今はわかりませんが、二人の関係に決定的な変化を与えてくれるのではないかと期待しています。

 

文乃ルートは、まだまだ素晴らしい物語になります。

 

信じています。

 

文乃の涙には必ず報われる意味があることを。

 

この項、以上です。