古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

比翼連理なるふたりは舞う[x]に想いを重ねるものである

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【はじめに】

 

「うわあ、このサバ味噌、とっても美味しいねえ!とろとろ〜!」

 

「だろ?文乃も喜んでくれて嬉しいよ」

 

目の前で、大好きな彼女である、古橋文乃が、サバ味噌定食を食べている。幸せそうだ。

 

大学2年生の春を迎えた。怒涛のように一年が過ぎた。実感があまりないなかで、学年が一つあがった。

 

充実した日々。それは、やはり夢につながる勉強を精一杯やることができる環境にいるから。でも、それ以上の理由もある。

 

古橋文乃。お付き合いしている、大切な人。彼女の存在が、とても、とても、とっても、大きい。頑張れる理由である。文乃は、お互い様だよ、と笑ってくれるけれど。

 

そんな、ある日のこと。

 

文乃の夕方の講義が突如休講となり。俺の夜のバイトも今日はお休みで。そんなことをお昼にメッセージでやりとりをしていて。

 

『あのさ。六花大に遊びにいってもいいかな?』

 

との文乃の提案があり。そういえば、俺は何度か文乃の通う天花大学に行ったことはあるけれど、反対に文乃は俺が通う六花教育大学にきたことはない。

 

天花大学は比較的都心にあり、六花教育大学は郊外にあることも関係しているかもしれないが。

 

『文乃が良ければ、おいでよ』

 

そう返事をして、プチデートと相なったのだった。文乃と逢える。それだけで、俺の胸は高鳴るのだった。

 

【第一章】

 

「んー、お腹が幸せ〜♪」

 

定食屋を出て、そんなことをいいながら文乃が大きくノビをする。

 

六花大の学生御用達のこの店。仲の良いご夫婦がこの地に根付いて30年。安くて、早くて、美味い、を実践している。

 

特にサバ味噌定食が絶品で、一番人気なのだ。大盛りにできるほかほかご飯、お袋の味つけの温かいお味噌汁、おしんこ、切り干し大根がたくさん入った小鉢、そして、ほろほろになっている身と甘くて濃厚な味噌で素晴らしい味付けになっているサバ味噌。男子学生が満腹になれる量。これで600円!

 

俺も週に一度の贅沢で、通わせてもらっている。顔も覚えてもらって、ありがたいことだ。

 

どうしていきなり定食屋か。

 

文乃を最寄り駅まで迎えにいき。お互い笑顔で駆け寄った。さあ、これからどうしようか、となった瞬間に、ぐー、と文乃がお腹を空かせた合図を鳴らしてしまい。


「違うの!これは……そう、謎の動物の鳴き声だよ、きっと!探しに行こう、成幸くんっ!」


そう、顔を真っ赤にしながら弁明した文乃を、ぜひ連れていきたい!といって案内したのだった。

 

美味しさは折り紙つきで、さらにお腹も空かせていて。文乃の食べっぷりはそれはもう、見事なものだった。それを見たおかみさんが、サイドメニューの小鉢を俺と文乃にただでつけてくれたほど。


「こんな別嬪さんがたくさん食べてくれてありがたいねえ。ほら、あんたも負けずに食べなさい!」


そう言ってくれたのだ。

 

「じゃあ、次はキャンパスが見たいなあ」


「なんだ、急に元気だな?お腹いっぱいになったからか?」


そう言ってからかう。


「成幸くんのいじわるっ!」


そう笑いながら文乃は俺をぱしぱしと叩く。と、いうことで。定食屋から歩いて5分のキャンパスに向かうのだった。

 

【第二章】

 

成幸くんが、がんばって勉強している六花教育大学のキャンパス。

 

「広いねえ〜!」


「街中じゃないからかもな」

 

わたしの通う天花大学よりずっと敷地が広い。講義棟も多いし、通りも幅広だ。

 

「春とはいえ、少し肌寒くなってきたな。大丈夫か?」


「うん、ありがとう。コートの下もちゃんとあったかくしてるから、平気」


「それに……ほら!」


そう言って、成幸くんと手を握っている方を高く掲げる。


「ね、これだけであったかいもん」


わたしの本音。成幸くんは、ぽりぽりと頬をかいて照れ笑いをする。

 

さて。ここの大学は、ほとんどの学生さんが先生志望だし、それ以外でも学校に関わる仕事に就くことが多いらしい。すれ違う学生さんは、先生の卵なのかあ。そう思うと、少し緊張してしまう。

 

「別にみんな普通の学生だよ、かたくなるなよ」


そう、成幸くんは言ってくれるけれど。


「なんだか、ちゃんと勉強してる?って雰囲気がしちゃうの」


と、わたしは苦笑混じりに答える。もちろん、毎日一生懸命勉強に打ち込んでいるけれども。自信を持って勉強してます、と言えるけれども。でも、ねえ。その時。

 

「おおい、唯我!」


「ああ、おつかれ」


成幸くんに声をかける男子学生3人組。わたしもぺこり、と頭を下げる。

 

一瞬、場の時間が止まってしまう。

 

「び、美人がいる……」


「唯我、なんで手を握って歩いてるんだ……?」


「あ、ああ、妹、妹だよな……?よく少女漫画で勘違いされるやつ」


三者三様のリアクション。成幸くんはなんて答えるのかな、と思い、ちらりと目を向ける。


「ええと。彼女だよ」


そう成幸くんが断定してくれる。この紹介の仕方。とっても、嬉しい。


『ぐわあああああああ!!!』


「どちらかと言えば地味目な唯我はこちら側だと思っていたのに……」


「圧倒的じゃないか、この戦力差……」


「……お幸せにな……」


そう、大袈裟に皆さん言いながら、ふらふらとその場を立ち去っていった。

 

「……面白い人たちだったね」


「いったろ、普通の学生ばかりだって」


「あのさ。大学の中でカップルって、いるの?」


「ん?もちろん。図書館とかで一緒に勉強したり、食堂でご飯食べたり、なんとなくぷらぷら2人で散歩する人たち、よく見るよ」


成幸くんと、同じ大学だったら、どうだったかな?そんなことをふと思う。ずっと一緒にいるかもしれない。それはそれで、間違いなく幸せな生活なんだろうけど。だけど。

 

「いつも一緒じゃなくても、俺は文乃をいつも想っているから」

 

「寂しくないよ」

 

こんなセリフを。笑顔でさらりと言ってくれる。だから、わたしは、何度も何度も彼に恋をしてしまうのだ。

 

「ありがと」

 

わたしは顔を赤らめながら、成幸くんと握りあっている手に力を込めるのだった。

 

さて、そろそろ日が暮れてきて。これから、どうしようか。

 

【第三章】

 

「あのさ、文乃に見せたいところがあるんだ」


そう切り出す。


「少し歩くんだけど、大丈夫?」


「うん、もちろん!楽しみっ、楽しみっ♪」


喜んでくれているのがわかる。いつも、そうだ。文乃は俺といる時間を楽しんでくれる。そのことがまっすぐに伝わってくるから、俺は幸せでたまらない。だってそうだろ?お互いに好きで、お互いを幸せにできる関係。これ以上望むべくもない。そう感謝する。

 

その場所へ行く途中、通らなければいけない商店街を文乃と歩く。


「いい雰囲気のところだね」


お世辞にも小洒落た場所ではないけれど。たしかに、活気のある通りだ。パン屋。喫茶店。美容室。クリーニング屋。八百屋。魚屋。肉屋。小さなスーパー。花屋。イタリアン。定食屋。赤提灯のかかった居酒屋。ごちゃごちゃしている。でも、そこにいる人たちは皆、元気だ。


「うん……俺は、こういうところ、好きだよ」


「こんな商店街が、うちの近くにあるといいよね」


「だな」


「いつか一緒に住むときには、そういうところ、選ぼうね」


「うん……って、ええ!?」


文乃はかるい感じでそんなことを呟いてしまうので、驚いてしまう。文乃はにっこり笑ったままだ。


「平日の夕方、わたしは商店街で晩ごはんの材料を買うの。そして、美味しいご飯をつくる」


「成幸くんは、たまにお花を買ってきてくれる。それをお部屋に飾りたい」


「休日は一緒に居酒屋に行こう。たまにはお酒も一緒に飲んでね」


「……そんな未来を夢見てるの」


少し照れていて。でもその瞳は真剣な、文乃。そんなこと。考えたことがないわけがない。

 

いつかの、ふたり。

 

「たまには、文乃がパンを食べたいっていうだろ?だから、手を繋いでパン屋さんに行こう」


「肉屋のコロッケもおやつがわりに買う。文乃が好きなやつだ」


「文乃がデートで着てくれる可愛いワンピースをクリーニングに出して、たくさん着てくれよ?」


「たまには、八百屋で新婚さんかい、ってひやかされたいな」


「成幸くん……」


文乃も、嬉しそうだ。

 

考えていることは同じで。見つめ合う視線も絡みあい。握る手の平は、互いの想いを伝えてくれる。

 

人通りの多い商店街でなければ、もう少し踏み込んだのにな、と思ってしまったのだった。

 

商店街を抜ける。さあ、文乃に見せたい景色は、もうすぐだ。

 

【第四章】

 

「……きれい……!!」

 

眼前に広がるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面の、夜桜だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず駆け寄ってしまった。それほどの、見応え。

 

ライトアップもされているということはあるにせよ。暗闇の中での満開の桜の幻想的な雰囲気といったら……!

 

「すごいねえ!」

 

わたしは興奮を隠せない。

 

「いつか見せたいとずっと思っていたんだ。喜んでくれて、嬉しい」


成幸くんの、穏やかな笑顔。安心する。

 

成幸くん。わたしの好きな人。そして、今は、恋人。

 

桜を眺めていて。この人と出会ったのも、春だったことを思い返していた。

 

りっちゃんと一緒に、苦手科目の分野の先にある夢を叶えたくてもがいていた。その時に、教育係として現れてくれて。

 

もしも、成幸くんに出会っていなかったとしたら。

 

「文乃、どうかしたか?」

 

少し迷ったが、考えていたことを話してみることにした。伝えたいことは、言葉にしなければわからないから。

 

「春は好きなの。成幸くんと出会った季節だから」

 

「もしも、だよ」

 

「うん」

 

「成幸くんと、出会えていなければ、ね」

 

「夢の叶え方も。家族との仲直りの仕方も。友達との本当の向き合い方も」

 

そして、何よりも。

 

「本当の恋も」

 

「きっとわたし、ずっと、わからないままだったと思う」

 

「そんなことを、ふと考えちゃって」

 

成幸くんは、ふるふる、と首を振る。

 

「お互い様だよ、文乃」

 

「あの春に、文乃たちと出会わなければ」

 

「夢の見つけ方も。誰かを支えることや支えられていることも。『できない』やつらの助け方も」

 

「何よりも」

 

「恋に落ちた時の切なさや、好きな人に告白するときの緊張や……結ばれた時の幸せを」

 

「知らないまま、だったよ」

 

「成幸くん……」「……文乃」

 

同時にお互いの名を呼ぶ。苦笑いしつつも。その出会いが、わたしたちを、大きく成長させてくれて、今があるとしたら。神様に、感謝するしかない。

 

そっと、成幸くんに身を寄せる。成幸くんが、優しくわたしの肩に手を回して抱き寄せてくれた。

 

同じ想いを抱き同じ景色を眺めることのできる人と、わたしは今、恋人であり。

 

だいすき。

 

そう、小さな声でつぶやくのだった。

 

【おわりに】

 

夜桜を見た帰りに、オススメのお団子屋さんでみたらし団子を二本買った。


「はむはむ……これも、おいしー!成幸くん、いいものばかり食べてるねえ!」


文乃は表情をくるくる変えながらお団子を頬張っている。いい顔をしている。


「まだまだ連れて行きたいところはあるからさ。またおいで」


「うん、絶対また来るよ!」


俺は、にこにこ笑う、この目の前の愛しい女の子と出会えた意味を、考えていた。偶然の出会いからだが、2人は想い合い、結ばれた。今の幸せ、だけでなく。これから先の未来も、ずっと、ずっと、ずうっと、2人でいられますように。

 

だいすきだ。

 

そう、そっと呟く。

 

桜の花びらが、ここまで舞ってきた。ひらひら。ひらひら。伸ばした俺の手のひらに、そっとおさまる。

 

春という季節をまた好きになる理由が増えた。

 

古橋文乃という女の子を、一生かけて幸せにしたい。

 

俺は、そんな想いを一層強くするのだった。

 

(おしまい)

 

 

 

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