古橋文乃ストーリーズ〜流れ星のしっぽ〜

「ぼくたちは勉強ができない」のヒロイン、古橋文乃の創作小説メインのブログです。

愛される[x]は両親の仲睦まじさがゆえ千思万考するものである

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わたし、唯我幸乃には、悩みがある。

 

両親である、父の成幸と、母の文乃が、仲が良すぎる問題である。

 

お父さんとお母さんは、高校の同級生だった。高校三年生の春に出会い。お母さんの夢を叶えるお手伝いを、お父さんが一生懸命しているうちに。お互い、恋に、落ちたそうだ。

 

どっちがより相手の方を好きなのか。

 

わたしも、実はわからない。

 

お父さんに聞くと、
「お父さんの方が、お母さんを好きだぞ。恋に落ちたらもうめろめろだったからな」
だし。

 

お母さんに聞くと、
「お母さんは、ずっとお父さんのこと、好きだったのよ。好きすぎて大変だったんだから!」
だし。

 

それも、お互いにこにこ笑いながら、まるで昨日のことみたいに話すんだもの。

 

嘘なわけがない、揺るぎのない、本当のことなんだと思う。

 

あちゃあ、手に負えないよ、である。

 

わたしが今中学2年生だから、2人とももう40歳と少しのはずなのだが。

 

今でも、2人はまるで恋人みたいなのだった。

 

恋人みたい、とはいっても、わたしの目の前ですごくいちゃいちゃべたべたする、というわけではない。でも、そんな雰囲気を、娘であるわたしに感づかれすぎるのはどうかと思うのだ。

 

わたしの目の前であっても。いまだに名前呼びは当たり前だし。

 

この前の朝も。

 

「成幸くーん、お弁当忘れてるよ!」


「おっと、ありがとう、文乃。あれ、文乃、寝癖」


そういってお父さんはお母さんの跳ねた髪の毛を、そっと撫でてしまって。


「あ、ありがとう。えへへ」


なんというか。普通にお母さんも嬉しそうなのだ。


そんなお母さんを見るお父さんの視線も優しくて。

 

あの、わたし、今朝髪型いつもと少し変えたんですけど!普通、なにかあるでしょ!そうお父さんに怒りたい気分だった(お父さんに気づいて欲しいということよりも、お母さんにわたし負けてる……という空しさがあった……)。

 

こんな話もある。

 

お父さんと結婚するー、という、お父さんからすると娘に言われたいセリフナンバーワンだと思うであろうもの。わたしも、お父さん大好きだったから(……とはいえ、表立ってはいわないけれどいまだって好きではある)、言ったことがあるらしい。

 

普通に喜んでくれればいいだけのはずなのに、お父さんときたら!

 

「ゆきちゃんね、おっきくなったらおとーさんとけっこんする!」


「ありがとう、幸乃。でも、お父さんはお母さんが世界で一番好きだから結婚してるんだ。幸乃はもっと、素敵な人がきっと見つけてくれるよ」


「成幸くん……ありがとう」


「!?!?!?」


娘のプロポーズを躱すお父さんに、そのことで喜ぶお母さん。さすがにあきれたよ、とその場にいた零侍おじいちゃんも言っていて。

 

当然わたしは号泣。慌ててお父さん、お母さんがフォローしてくれはしたそうだけれど。今でもわたし、これ結構根に持っている。

 

こんなこともあった。

 

家族3人で映画に行った時のこと。素敵なラブストーリーだ、ということを友達に聴き、わたしが見たくて。(残念ながらわたしにそんな映画を一緒に見きたくなるような『彼氏』はいない。いまは。いまは、ということを念押ししておく!)

 

確かに、お話は素晴らしかった。俳優さんたちの演技もさることながら、ストーリーは感動的だし、BGMも素敵で。想いあっているのに、ずっとすれ違っていた2人が結ばれたラストシーンは、べたべたにも関わらず、わたしは泣きそうで。

 

お母さん、ハンカチかして、と視線を向けてみると。お父さんーお母さんーわたしの並びで座っていたところ、お母さんとお父さんが手を繋いでいるではないか!

 

周囲の人に迷惑をかけないよう、ごくごく小さく「こほん」とわざとらしいせきをすると、それに気づいたお母さんとお父さんは、わたわたと慌てながら手を離して、2人とも、いやあ、ついつい、みたいな顔をしていた。(あとから聞いたら、クライマックスでお父さんからお母さんの手をそっと重ねてきて、お母さんからお父さんの手を握りにいったそうだ)。ついつい、じゃねーよ、だよ!膝から崩れ落ちるかと思った。

 

なんだか昔を思い出してしまって、と弁解するお父さん。この人は昔だけどころか現在進行形でお母さんに恋をしているよね!?そういって問い詰めたい思いをグッと飲み込んだ。

 

ラブストーリーの映画を見に行ったにも関わらず、両親が一番恋人同士だった、というめちゃくちゃなオチなのだ。

 

そして、極め付けは。

 

この前の夜のこと。夜といっても深夜に近い時間帯。わたしは自分の部屋で友達に借りていた漫画を一生懸命読んでしまい、少し夜更かしをしていた。いつも寝る時間より、2時間ほど過ぎてしまっていて。喉が渇いていたこともあり、何か飲み物を、と思ってリビングに向かうと、明かりがついていた。

 

消し忘れかな、と思ったら、お父さんとお母さんがいて。いるだけならまだよいのだけれど。

 

ソファに並んで座っている2人。お母さんが、お父さんの肩にこつん、と頭を預けている背中が見えて。静かに、言葉を交わしているらしく、何をしゃべっているのかまでは聞こえず。

 

わたしの家なのに、なんでこんなに気を遣わなきゃいけないのよ、というわたしのど正論はあるとはいえ。あーあ、邪魔はやめといてやるか、とその場を離れかけた時だった。

 

お父さんとお母さんが、見つめあっていて。あ、これは見てはいけない流れだ、と思った瞬間、時すでに遅しで、2人は軽くキスを交わしてしまった。交わした後もまた、よい雰囲気で見つめあっていて。

 

これ以上何か見せられるとわたしにはいろいろ早すぎる、と危機感でいっぱいになり、静かに、でも、迅速に、わたしはその場を退散するしかなかったのだった。

 

部屋に籠ることにする。いやあ。どうしたものか。まだドキドキしている。

 

借りていた漫画もまた、恋愛ものだったのだけれど。

 

これよりももっと。お互いの好き、が伝わってしまっていて。

 

娘のわたしはやさぐれるしかないのか、と思ってしまうのだった。

 

だけどね。

 

わたし、唯我幸乃には、願いもある。

 

絶対に直接は言わないけれど。

 

いつか、お母さんみたいに、大好きな人を見つけて、結ばれたい。

 

お父さんみたいな人と一緒になって、愛されるお嫁さんになりたい。

 

それは。

 

まぎれもなく、わたしの心からの願いでもあるのも、本当だったりするのだった。

 

(おしまい)